出刃包丁の選び方と研ぎ方|魚をさばく道具の基本
魚をさばくとき、腕前より先に結果を左右するのが包丁の切れ味だ。切れない包丁は身を切らずに押し潰すので、どれだけ丁寧にやっても断面がぼろぼろになる。逆に、よく研げた包丁があれば手順はあとからついてくる。
なぜ出刃が要るのか
三徳包丁や牛刀でも魚はさばける。ただし骨に当たったときに差が出る。
- 出刃は刃が厚く重い。重さで骨を断てる
- 三徳・牛刀は刃が薄い。骨に当てると刃が欠ける
アジやイワシのような骨の柔らかい小魚なら三徳でも足りる。頭を落とす、カマを外す、といった工程が入るなら出刃が要る。
「切れ味」ではなく「骨を断つための重さと厚み」が出刃の本質だと考えるといい。
サイズの選び方
刃渡りは、狙う魚の大きさで決める。
- 105〜120mm(小出刃):アジ・イワシ・キス・メバルなど30cm以下。取り回しがよく最初の一本に向く
- 150〜165mm(標準):サバ・タイ・スズキなど50cmまで。家庭で一本だけ持つならこのサイズ
- 180mm以上:ブリ・大型青物。それ以外では重くて扱いにくい
迷ったら150〜165mmを選ぶ。小型魚にはやや大きいが、使えないことはない。逆に小出刃で大型魚をさばくのは危険で、骨に負けて刃が欠ける。
刃渡りが長いほど良いわけではない。まな板からはみ出す長さの包丁は、家庭では扱いにくいだけになる。
片刃と両刃
出刃は基本的に片刃で、右利き用は右側にだけ刃がついている。
- 片刃:骨に沿わせやすく、身を薄く削ぎやすい。和包丁の標準
- 両刃:まっすぐ切り下ろしやすい。洋包丁と同じ感覚で使える
左利きの人が右利き用の片刃を使うと、刃が斜めに入って身が曲がる。左利き用を選ぶか、両刃を選ぶ。
片刃は研ぎ方も片面が中心になる(後述)。両刃より研ぎやすい面もあるので、最初から片刃で覚えてしまってよい。
鋼とステンレス
- 鋼(はがね):よく切れて研ぎやすい。ただし錆びる。使うたびに拭いて乾かす必要がある
- ステンレス:錆びにくく手入れが楽。鋼よりわずかに切れ味が落ちるが、家庭では十分
釣った魚を月に数回さばく程度なら、ステンレスをすすめたい。鋼は放置すると一晩で錆が出る。手入れを楽しめる人以外には向かない。
「ステンレスは研げない」と言われることがあるが、誤解だ。普通に砥石で研げる。
研ぎ方
砥石は中砥(1000番前後)が1つあれば足りる。仕上げ砥(3000番以上)は切れ味を上げたい人向けで、必須ではない。
- 砥石を10〜15分ほど水に浸ける。気泡が出なくなったら準備完了。
- 濡らした布巾の上に砥石を置いて固定する。
- 刃を砥石に当て、刃の裏側に10円玉2枚分ほどの隙間ができる角度(約15度)を保つ。
- 刃元から切っ先まで、区間に分けて研ぐ。押すときに力を入れ、引くときは力を抜く。
- 反対側(裏)に「返り」が出るまで研ぐ。
- 返りが出たら裏返し、裏面を砥石に密着させて2〜3回撫でて返りを落とす。
片刃の場合、研ぐのは表面が中心で、裏面は返りを取るだけだ。裏を大きく研ぐと刃の形が崩れる。
研げたかどうかの確かめ方
返りとは、研いだ結果として刃先の反対側にめくれ上がる金属のバリのことだ。これが出ていれば、刃先までしっかり研げている。
- 指の腹を刃先に対して直角に、刃と反対方向へ軽く滑らせる。ざらつきがあれば返り
- 刃を蛍光灯にかざす。刃先が白く光る部分は、まだ研げていない
- 新聞紙を切ってみる。引っかからずにすっと切れれば十分
返りの確認で、刃に沿って指を滑らせないこと。切る。刃と直角の方向に動かす。
研ぎたては刃先が荒れているので、新聞紙などを数回切って落ち着かせるとよい。
手入れ
- 使ったらすぐ洗う。魚の血や内臓は錆の原因になる
- 洗ったら必ず拭いて乾かす。濡れたまま置かない
- 食洗機に入れない。柄が傷み、刃も傷む
- まな板は木か樹脂。ガラスや陶器の上で切ると刃が一発で潰れる
- 保管は乾いた場所へ。シンク下の湿気は避ける
研ぐ頻度は使用回数による。魚を数匹さばくごとに軽く研ぐくらいで、切れ味を保てる。切れなくなってから研ぐより、切れているうちに軽く研ぐほうが早く終わる。
まとめ
最初の一本を選ぶなら、150〜165mmのステンレス片刃(左利きなら左利き用)と、1000番の砥石。これで釣れる魚のほとんどに対応できる。
そして何より、切れる状態を保つこと。三枚おろしがうまくいかない原因の半分は、腕ではなく刃だ。おろし方そのものは三枚おろしの基本にまとめてある。