サバの下処理とアニサキス対策|生で食べるなら冷凍が必須
サバは釣れると嬉しい魚だが、扱いを間違えると食べられなくなる魚でもある。傷みが早く、生食にはアニサキスのリスクがつきまとう。ここでは釣ったサバを持ち帰って捌くまでの手順と、生で食べる場合に何が必要になるのかをまとめる。
サバは「生き腐れ」と呼ばれるほど傷みが早い
「サバの生き腐れ」という言い回しがある。生きているうちから腐り始めているように思えるほど、死後の劣化が速いという意味だ。実際サバは筋肉に含まれる酵素の働きが強く、脂も多い。見た目がまだ綺麗でも、中身の傷みが進んでいることがある。
だから他の魚以上に、釣ってから台所に着くまでの温度管理が効いてくる。ここを外すと、あとの工程をどれだけ丁寧にやっても味は戻らない。
釣り場でやること
- 釣れたらすぐ、エラの付け根に刃物を入れて血を抜く。サバは血が多く、残ると生臭さが強く出る。
- クーラーボックスに海水と氷を入れた「潮氷」を作り、そこへ入れて一気に冷やす。真水の氷水は身が水を吸うので使わない。
- クーラーボックスは日陰に置き、開け閉めを減らす。
サバを常温に置くのは避ける。味が落ちるだけでなく、後述するヒスタミン食中毒の原因にもなる。こればかりは加熱しても取り返しがつかない。
潮氷の作り方や血抜きの位置は、釣った魚の持ち帰り方に図解つきでまとめてある。
アニサキスとは何か
アニサキスは、魚介類に寄生する線虫の幼虫だ。長さ2〜3cm、太さ0.5〜1mmほどの白い糸状で、渦を巻いた状態で潜んでいることが多い。サバのほか、アジ、イワシ、サンマ、カツオ、サケ、イカなど幅広い魚介に寄生する。
生きたまま食べてしまうと、胃や腸の壁に潜り込もうとする。数時間から十数時間後に、みぞおちの激しい痛みと吐き気が出るのが典型的な胃アニサキス症だ。基本的な治療は内視鏡での摘出になる。
重要なのは寄生している場所だ。魚が生きている間、アニサキスは内臓(腹腔内)に集中している。ところが魚が死んで時間が経つと、内臓から腹側の筋肉へと移動してくる。
つまり、釣ったその日のうちに内臓を取り除くことが、リスクを下げる最も現実的で効果の大きい手段になる。持ち帰ってから翌日まで丸のまま冷蔵、というのが一番まずい。
効くのは加熱と冷凍だけ
アニサキスを確実に死滅させる方法は、次の2つに限られる。
- 加熱:中心温度70度以上(60度なら1分以上)
- 冷凍:マイナス20度で24時間以上
一方で、よく効くと思われがちだが実際には効かないものがある。
- 酢(しめても死なない)
- 塩
- 醤油
- わさび
- レモン汁
「しめサバにすれば安全」は誤りだ。酢でアニサキスは死なない。しめサバを作るなら、冷凍の工程を別に挟む必要がある。
「よく噛めば大丈夫」という話も聞くが、噛み切れれば確かに死ぬというだけで、確実に噛み切れる保証はない。予防法として当てにしないほうがいい。
家庭で冷凍する場合には注意点がある。家庭用冷凍庫はマイナス18度前後の設定が多く、マイナス20度に届かないことがある。ドアの開閉でさらに温度は上がる。現実的な折衷案としては、開け閉めの影響が少ない奥のほうに置き、48時間以上と時間を長めに取ることになる。それでも業務用の急速冷凍ほど確実ではない、という前提は持っておきたい。
下処理の手順
サバはウロコが細かく、アジのゼイゴのような硬い部位もない。工程そのものはアジより単純だ。
- 流水にあてながら、包丁の背で軽くウロコを落とす。ほとんど気にならない量なので力は要らない。
- 胸びれの後ろから頭のほうへ斜めに包丁を入れ、裏返して同じ角度で入れて頭を落とす。
- 腹を肛門から頭側へ切り開き、内臓を取り出す。
- 背骨に沿った血合いを、包丁の先や指の腹で掻き出す。
- 腹の中を流水でよく洗う。歯ブラシがあると血合いの残りが落としやすい。
- キッチンペーパーで水気を徹底的に拭き取る。表面も腹の中も乾かす。
内臓を取り出すときに破らないこと。アニサキスが最も多くいる場所なので、中身を身にこすりつけると意味がなくなる。破ってしまったら、その部分を切り落とすか、生食を諦めて加熱に回す。
水気を残すと傷みが早まり、焼いても揚げても仕上がりが水っぽくなる。サバは特にここが響く。
三枚おろしと、どこを重点的に見るか
三枚おろしの手順自体はアジと同じで、背側から背骨に沿って浅い切り込みを何度かなぞりながら深くしていく。詳しい手順はアジの下処理の記事に図解つきでまとめてあるので、そちらを参照してほしい。
おろしたら、腹身(腹側の薄い部分)を重点的に確認する。ここは内臓に接していた場所で、移動してきたアニサキスが最も見つかりやすい。血合い骨のまわりも見落としやすいので、指で撫でながら見ていく。
目視での確認のしかた
目視は万全ではないが、やる価値はある。見つけやすくするコツがいくつかある。
- 明るい場所で行う。身の下から明かりを当てると、白い糸が影として浮かびやすい
- 刺身に引くときは薄めに切る。厚いと中に隠れたものが見えない
- 切った身は一切れずつ両面を見る
- ブラックライト(紫外線ライト)を使うと、アニサキスが青白く光って見つけやすくなる
それでも身の奥に潜んでいるものは見えない。目視だけで生食する以上、リスクはゼロにならないことは理解しておきたい。
しめサバを作るなら
しめサバは、サバ料理のなかでも特にアニサキス事故が多い。酢で死なないことを知らずに作られてしまうためだ。
作るなら、次のどこかに冷凍の工程を必ず挟む。
- 三枚におろして腹骨を取る。
- 塩を全体にまぶして30分ほど置き、洗って水気を拭く。
- 酢に漬けて締める。
- この前後どちらかのタイミングで、マイナス20度で24時間以上(家庭用冷凍庫なら48時間以上)冷凍する。
味付けの分量や漬け時間はしめサバのレシピにまとめてある。
アニサキスアレルギーの人は、加熱や冷凍で虫が死んでいても、残った成分に反応して症状が出ることがある。過去にサバで蕁麻疹や強い症状が出たことがある場合は、自己判断せず医師に相談してほしい。
もうひとつのリスク:ヒスタミン食中毒
サバで注意すべきは寄生虫だけではない。
サバのような赤身魚には、ヒスチジンというアミノ酸が多く含まれている。これが常温に置かれると、細菌の働きでヒスタミンに変わる。ヒスタミンを大量に摂ると、食後30分から1時間ほどで顔の紅潮、蕁麻疹、頭痛といった症状が出る。
ヒスタミンは加熱しても分解しない。一度できてしまうと、焼いても煮ても取り除けない。防ぐ方法は温度管理しかない。
- 釣ったらすぐ潮氷で冷やす
- 買ってきたらすぐ冷蔵・冷凍する
- 解凍は常温ではなく冷蔵庫で行う
- 口に入れたときに舌がピリピリしたら、それ以上食べない
保存の目安
- 当日中に食べる:三枚おろしにして、キッチンペーパーで包み冷蔵庫へ
- 翌日に食べる:内臓とエラを抜いた状態で、水気を拭いてラップに包み冷蔵。生食には向かない
- 数日以上おく:三枚おろしにして水気を拭き、1回分ずつラップで包んで冷凍
サバは冷凍しても味が落ちにくいほうの魚だ。空気に触れる面積を減らすほど劣化が遅いので、ラップでぴったり包んだうえで保存袋に入れ、空気を抜く。
「明日刺身にしよう」と丸のまま冷蔵するのが最も避けたいパターンになる。生食のつもりなら、その日のうちに内臓を抜いて冷凍まで進めてしまうほうがいい。
まとめ
サバは扱いに気を使う魚だが、押さえるべき点は多くない。釣ったら即冷やす。その日のうちに内臓を抜く。生で食べるなら冷凍する。この3つでリスクの大半は下がる。
加熱してしまえば寄生虫の心配はなくなるので、味噌煮や塩焼きから入るのも十分にいい選択だ。